全国の公立図書館・点字図書館・福祉支援団体への朗読CD寄贈プロジェクト
朗読小屋浅野川倶楽部は、石川県金沢市で文学作品の朗読活動を行っています。 私たちはこれまで、お目のご不自由な方々をふくめ、すべての方に楽しんで頂ける朗読公演を開催してきましたが、近年はコロナ禍を受けて、YouTubeを利用した朗読作品の配信活動を行ってきました。
私たちは2021年12月より全国の公立図書館・視覚障害者協会・点字図書館・支援団体の方々に向けて「朗読CDの寄贈プロジェクト」を始めました。これまで、北は北海道、南は沖縄までからたくさんのお問い合わせを頂いており、現在14件の「朗読CD」「朗読MP3音声データ」の寄贈が決定しています。提供される朗読作品は金沢ゆかりの文豪・泉鏡花・徳田秋聲・室生犀星を始め日本文学も含まれます。私たちとしては、全国の方々に金沢ゆかりの作家作品を朗読で聞いて頂けることもありがたく感じています。この流れはまだ続くのではないかと期待しています。

プロジェクトを立ち上げたきっかけ by.事務局
今回のプロジェクトを立ち上げ、担当させて頂く私(by.事務局)は学生時代から演劇部に所属して活動していました。社会人となってからも劇団活動を続け、舞台演劇や映画館のように不特定多数の方々が集い、同じ時間と同じ感動を共有することができる劇場文化について考えるようになりました。
私は時代の流れと共にテレビやインターネットによるホームシアターの発展によって、特に地方都市の劇場文化は少し元気がなくなっていったように感じてきました。そこで有志劇団員と共に地域の自治体の方に働きかけ、図書館、公民館、寺院など公共の施設を、音響照明を持ち込んでブルー色の幻想的な背景や建物のライトアップをしたりして、その劇的空間の中で朗読劇を上演させて頂くことで、劇場の魅力を伝える「出前公演」を続けて参りました。
そんな活動を10年近く続けて、ある日私は石川県小松市のお寺さんで開催される自治体のイベントに呼ばれ、会場設営を完了して観客の皆様をお迎えしていた時に、お目のご不自由な男性から「これから始まる朗読劇を録音してもいいですか?」と聞かれました。その時私は若気の至りから生意気にもそのお申し出を断ってしまいました。男性は「分かりました」とお答えになり、背中を丸めて座席に戻られました。それから私はそのご様子を長く記憶することになり「どうしてあの時、男性からのお申し出を断ってしまったのか」と後悔するようになりました。

大家さんは素晴らしい方
それから私は忙しい社会人生活を送りながら朗読劇の出前公演を続けていました。そして会社を退職して、2004年に石川県金沢市の観光名所「東山茶屋街・主計町茶屋街」を中心に古き良き伝統の香りが残る浅野川界隈で、戦友でもある女優高輪眞知子と共に朗読小屋浅野川倶楽部を設立いたしました。朗読小屋浅野川倶楽部では、金沢ゆかりの作家泉鏡花・室生犀星・徳田秋聲、五木寛之作品、日本文学、童話、民話などの文学・文芸作品を朗読を通して味わう朗読講座を開講して県内外から受講生が通うようになりました。そしてその稽古の成果を発表する場として年2回の朗読公演を開催させて頂くようになりましたが、2020年春、新型コロナウイルスの流行によって、第28回定期公演を取りやめることになりました。
私たちはコロナ禍にありながら何としてもこの朗読活動を続けていこうと考えて、2020年夏、当時としては苦肉の策ではありましたが、朗読稽古そのものを対面稽古からスマホやICレコーダーを活用したリモート稽古へ変更して日々稽古を積むことにいたしました。そしてYouTube朗読配信活動へ大きく舵をきりました。しかし、朗読を収録するためのスタジオを持っておらず、プロ仕様のスタジオを借りて収録が出来るほどの資金を持たない私たちは途方に暮れました。そこでなんと、あろうことか、借りている稽古場兼自宅の押し入れを改造して自作スタジオを作ってしまいました。もちろん入居前に大家さんから「改築など何でもしてよい」と言われていたので、思い切ってしでかしてしまったのですが、私は内心、大家さんに対して「押し入れスタジオ」を作ったなんて恐ろしくて言えない気がしていました。しかしある日たまたま新聞社の取材があって、記者の方が撮影された押し入れスタジオの写真が新聞紙面に大きく紹介されてしまったことで、大家さんに隠していた全貌が明らかになってしまったのでした。
その後、大家さんのご厚情のもと堂々と始めることができたYouTube朗読配信活動は、2022年5月には10000人を超えるチャンネル登録者数まで成長させて頂き、朗読を担当する会員の士気も上がり続けています。当初は音響設備の知識も技術も十分ではありませんでしたが、奮闘しているうちに徐々に整ってきました。そして意気揚々とした気持ちで自作スタジオを眺めていたある日、ふと20年前の石川県小松市のお寺で出会った、お目のご不自由な男性との出来事を思い出したのです。あの出来事から20年近く経ちましたが、あの時出会った男性は今は60才代になっているかも知れません。私も年を重ね今を生きていますが「あの時の自分に出来なかったことを、今の自分ならば出来るのではないか・・・何をすれば・・・」と考えたとき、「押し入れスタジオで収録した朗読をCDにして、あの日の男性に手渡せるかも知れない」と、結論が出ました。

プロジェクトの内容
2021年12月14日より、全国47都道府県の視覚障がい者協会、点字図書館、支援団体の方々へ、私たち朗読小屋浅野川倶楽部が製作した朗読CDを寄贈させて頂きたい旨をご連絡させて頂いたところ、一週間後の12月21日には、北は北海道、南は宮崎県まで17件のお問い合わせを頂きました。私たちも反響の大きさにただただ感謝の気持ちで一杯になりました。そしてすでに、お問い合わせを頂いた14件の点字図書館、支援団体の方々へ、利用者への貸出CDなどで寄贈させて頂くことが決定いたしました。
今回のプロジェクトを立ち上げたきっかけは、担当させて頂く私個人(by.事務局)の経験から発生していますが、もっと丁寧に考えを巡らせると、一度ではなく何度でも繰り返し聞いて頂ける朗読CDを製作させて頂いて、お目のご自由な方々の文化的生活の一助になれたなら、これ以上の喜びはないと考えています。今後も朗読CDの寄贈受け入れのご連絡を頂けるならば喜んで無償提供をさせて頂きます。

プロジェクトの展望・ビジョン
正直なところ私は、これまで視覚障害者協会、点字図書館、支援団体の方々のご活動を詳しく知る機会がありませんでした。しかしこんなにも素敵な出会いを頂いたことで、たくさんの学びを頂きました。このプロジェクトは2021年12月時点でご要望を頂いている視覚障がい者支援団体の方々への朗読CD寄贈製作費を募る目的で始めさせて頂きましたが、紆余曲折を経てここまでたどり着いた今の私の思いは、すべての方が分け隔てなく、同じ感動を共有するための劇場文化振興活動の手は止めてはならないものと感じています。
今後のビジョンを含めて、本プロジェクトへ波及させたいことは、著作権保護期間を終えた朗読作品の本文を字幕化して、お耳のご不自由な方が、撮影された朗読映像によって朗読者の表情や話す口の形を口話手法で読み取って頂いて楽しんで頂けるDVDを製作したいと考えています。
お心をお寄せ頂けましたら幸いです。